【LIFE MUSIC. ~音は世につれ~】第19回 流星のサドルと酒屋のムスメ by ナツ・サマー

ESSAY / COLUMN

〈NO MUSIC, NO LIFE.〉をテーマに音楽のある日常の一コマのドキュメンタリーを毎回さまざまな書き手に綴ってもらう連載〈LIFE MUSIC. ~音は世につれ~〉。今回のライターはナツ・サマーさんです。 

 初めて手に入れた、自分だけのラジカセ。
 両親からのクリスマスプレゼント。
 黒くて丸いフォルムに、真っ赤な大きなリボンがベッタリと貼り付けてあった。

 実家は港町の酒屋で、当時はお酒の仕入れが一定数越えると酒メーカーや菓子メーカーからいろんな景品が付いてきた。衣類乾燥機、トースター、キッチン用品、キャラクターグッズにクッション。両親が着ていたTシャツにスタジャン、キャップ、前掛けももちろん景品。そしてラジカセ。
 とにかく私は人生初のMy電化製品に浮かれていた。手始めにいろんなラジオ番組をむさぼり聴く。だんだんとお気に入りの番組が絞り込まれていった。

 そんな中、あるジャンルの音楽に強い衝撃を受ける。魂を突き動かすようなリズムとソウルは、海辺の小さな町で暮らす私を広大な新しい世界へと連れ出してくれた。その番組のDJを務めていたのが久保田利伸サマー。私の生活は「流星のサドル」を与えられ一変したのだ。

 彼の『プラネット・フレーヴァ』という番組が大好きで、毎週日曜日の夜は早々に自分の部屋に引っ込み、ラジカセの前にお行儀よく着座、そして人差し指は録音ボタンの上でスタンバイ。

 当時、久保田サマーはニューヨークで活動していて、向こうのトップチャートや大物ミュージシャンとの交友関係、ライフスタイルなどを紹介していて、どれも魅力的な話ばかり。一言も聞き漏らさないよう、興奮を押し殺し拝聴させていただいていた。

 さらに、紹介されるアーティスト名と曲名を走り書きし、のちほど聞き慣れない海外アーティストの名前が録音データと相違ないかを指差し確認、手帳の後ろのページに丁寧に清書。

 学校帰り、最寄りの一駅手前の無人駅で降り、古本&古CD屋へ。手帳とCDの背表紙に書かれたタイトルを見比べながらも、とりあえずアーティスト名だけでもヒットすれば片っ端から買い漁る日々。また、ある日は古CD屋までの田んぼ道の半ばで数匹の野犬に睨みを効かされあえなく断念、何の収穫もなく帰路に着くこともあった。

 そんな日々が、ますます音楽愛を育ててくれたのだと思う。野犬にさえも感謝。
 「リスナーとしてだけではなく、歌う側としても音楽に関わりたい!」と願うまでに、そう時間はかからなかった。

 その後、私は故郷を飛び出し、東京で働きながら歌を歌い始めた。R&Bからレゲエ、ジャズ、シティポップとレパートリーは広がり、グローバルミュージックを追いかけてロサンゼルス、モンゴルにも歌いに行った。いま私は、歌手として活動、そして僭越ながらDJのお仕事もいただいている。

 それにしてもラジオや音楽を聴くことにあんなに全神経を研ぎ澄ましていた、そんな感覚がいまは懐かしく、なんとも愛おしい。

 あの時に感じたワクワクを伝えたいから。音楽の力を信じさせてくれた久保田利伸サマーへの感謝を伝えたい。

 Keep On JAMMIN!

 

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シンガー ナツ・サマー LINK

クニモンド瀧口(流線形)のプロデュースで、2016年にシティポップ・レゲエシンガーとしてデビュー。4枚のアルバムと、12枚のシングルを発売。透明感、クールでナチュラルな歌声は、レゲエとシティポップとの融合に適しており、現在のシティポップ・レゲエシンガーの先駆け的存在。2022年5月25日に7インチシングル『Twilight Shadow/渚のアンラッキーボーイズ』をリリース。7月6日にはアルバム『SUN KISSED LADY』をリリース。7月からツアーもスタートする。