【ポップの羅針盤】第27回 「MUSIC AWARDS JAPAN 2026」が開拓する「アジアの中の日本」の音楽シーン by 柴 那典
ESSAY / COLUMN
アジアの音楽シーンは、この先、もっと手を取り合っていくように思う。
先日開催された「MUSIC AWARDS JAPAN 2026」(以下MAJ)で、個人的に最も発見があったのは「最優秀アジア楽曲賞」だった。受賞したのはHUNTR/X「Golden」。ただ、正直、この結果は最初から予想していた。アカデミー賞でも歌曲賞を受賞し、K-POPという枠組みを超えたセンセーションを世界中で巻き起こしている。
むしろ興味深かったのは他のノミネートだ。韓国からはWOODZ「Drowning」とPLAVE「Dash」。フィリピンからCup of Joe「Multo」。インドネシアからSilet Open Up「Tabola Bale」。特にCup of JoeとSilet Open Upは日本での知名度は決して高くはない。きっとノミネートをきっかけに名前を知った人もいるのではないだろうか。
さらに言うならば、この選考過程そのものが持つ構造的な意味合いも大きいと思っている。MAJでは、5000人を超える音楽関係者の投票によって受賞が決まる。そして「最優秀アジア楽曲賞」に関しては、エントリー作品からノミネートを選ぶ一次投票も、ノミネートから受賞を選ぶ最終投票も、国内投票メンバーにとって投票必須の部門になっている。
今回のMAJの「最優秀アジア楽曲賞」のエントリー作品は、韓国、インドネシア、フィリピン、ベトナム、タイ、マレーシア、シンガポールの2025年の年間チャート上位3曲。すなわちアーティストやクリエイターを含む投票メンバーは、投票対象としてこれらの曲に向き合ったはず。そして真摯に選んだはず。つまりMAJは、日本の音楽関係者がアジア各国のヒットソングを聴き、それぞれの国の音楽シーンの豊かさに思いを馳せる機会にもなっている。
MAJではアジア各国・地域の音楽賞と連動した部門の表彰も行われた。フィリピンのCup of Joeは「Philippine Popular Music特別賞」を、インドネシアのHindiaは「Indonesian Popular Music特別賞」を受賞。両アーティストはアワードにあわせて来日し、授賞式「Premiere Ceremony」ではパフォーマンスも披露した。そのステージもすごくよかった。5人組バンドのCup of Joeは、いわば「The 1975以降」とも言うべき、広がりあるシンセサウンドのインディポップ。シンガーソングライターDaniel Baskara PutraのソロプロジェクトであるHindiaは、バンドスタイルのセンチメンタルで情熱的なエモ/パワーポップ。きっと同じ音楽的な文法を共有している日本のアーティストやクリエイターも少なくないだろう。
アワードの開催ウィークの6月11日には、ライブイベント「MUSIC AWARDS JAPAN WEEK SPECIAL LIVEーShibuya Sound Scramble 2026ー」も開催され、Cup Of Joe、Hindia、そして韓国のWinningshot、台湾のRIKIなどアジア各地のアーティストも出演した。また6月9日から11日にかけては音楽制作コライティングキャンプ「SONG BRIDGE 2026」が都内で開催され、Cup of JoeとHindiaはこれにも参加している。あわせてタイのラッパーSARAN、シンガポールのシンガーShyeも招かれ、国内外のアーティストやプロデューサーがスタジオに入って共に楽曲を制作した。
主要部門が表彰された授賞式「Grand Ceremony」だけを見ていると気付かないことではあるけれど、MAJは単に「世界に向けて日本の音楽を発信する場」としてだけでなく「アジアのトップアーティストを表彰し、日本に迎え入れ、対バンイベントやコライティングキャンプを通じて交流し楽曲制作をする場」としての意味合いも持つようになってきている。あまり報じられていないことではあるけれど、おそらく、未来に向けた布石としては、かなり大きなものになるのではないだろうか。
先日、2027年に開催される「第69回グラミー賞」に「最優秀アジアン・ポップ・ミュージック・パフォーマンス」部門が新設されることが発表された。これも時代の流れの大きな象徴になるはずだ。特徴は、エントリーの条件がアーティストの民族的背景や国籍ではなく言語である、ということ。対象はK-POPやJ-POPを含むアジア市場発のポップミュージックで、条件は1つ以上のアジア言語が意味のある形で使用されていること。
この変更に対して、ジャンル部門の追加が主要部門からの隔離につながると批判する向きもある。が、筆者としてはこの先に起こることは逆だろうと予測する。実際、グラミー賞を運営するレコーディング・アカデミーの会員には、韓国を筆頭にアジアのアーティストやプロデューサー、音楽関係者が増えている。そのことが部門の新設と連動した動きになっている。
MAJでは「最優秀アジア楽曲賞」のプレゼンターとしてJ.Y. Parkが登壇し、MISAMOもパフォーマンスを行った。韓国の音楽関係者の参加も今年のMAJのトピックの一つだったと思う。とはいえ、長年にわたってブランドを築き上げてきた「MAMA AWARDS」に比べると、アジア圏におけるMAJの影響力や存在感は、まだまだ大きくはない。来年に向けて、K-POPのトップアーティストが授賞式やライブイベント、コライティングキャンプに参加する機会がさらに広がっていけば、日本と韓国の新しい音楽カルチャーの結びつきをもたらしていくのではないかと思う。
日本の音楽シーンは変わりつつある。その潮流の一つが「アジアの中の日本」という視点と共に広がっていくと、もっと面白くなるのではないかと思っている。
音楽ジャーナリスト 柴 那典(しば・とものり) LINK
1976年神奈川県生まれ。音楽ジャーナリスト。京都大学総合人間学部を卒業、ロッキング・オン社を経て独立。音楽を中心にカルチャーやビジネス分野のインタビューや執筆を手がけ、テレビやラジオ出演など幅広く活動する。著書に『平成のヒット曲』(新潮新書)、『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)、『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)、共著に『ボカロソングガイド名曲100選』(星海社新書)、『渋谷音楽図鑑』(太田出版)がある。ブログ「日々の音色とことば」
Twitter:@shiba710 /note : https://note.com/shiba710/