【LIFE MUSIC. ~音は世につれ~】第89回 “流行歌”がSNSから作られる時代に聴く矢野顕子 by カルロス矢吹

カルロス矢吹
イラスト 竹内 俊太郎

ESSAY / COLUMN

〈NO MUSIC, NO LIFE.〉をテーマに音楽のある日常の一コマのドキュメンタリーを毎回さまざまな書き手に綴ってもらう連載〈LIFE MUSIC. ~音は世につれ~〉。今回のライターはカルロス矢吹さんです。

 

  来年の話をすると鬼が笑う、という。では、去年の話をすると誰が笑うのだろうか?

というわけで去年の話から始めさせてもらうが、笑わずに聞いていただきたい。流行語大賞の話だ。あの賞の整合性はとりあえず横に置いておいて、仕事柄どうしても音楽に関する言葉が取り上げられていると注目してしまう。やっぱり流行歌というものを考える時の指標のひとつにはなるからだ。

昨年は「チョコミントよりもあ・な・た」がノミネートされていた。これは女子高生のアイドル活動を描く『ラブライブ!』のラジオ番組から誕生した期間限定の声優ユニットAiScReam(アイスクリーム)のデビュー曲「愛♡スクリ~ム!」の一節だ。チョコミントだけでなく、他にもストロベリーフレイバー、そしてクッキー&クリームのヴァージョンもあり、主にTikTokInstagramなどSNSで多用されて流行に火がついた。踊ってみた動画だけでなく、実際にストロベリーアイスをアップする時など、食事に絡めて使っている人も多かった印象だ。

こうやってSNS発信で流行歌が生まれていく様を目の当たりにすると、改めて音楽を取り巻く環境の移り変わりを感じる。流行語大賞での変遷を見てみると、2001年(つまり21世紀最初の)ノミネートには缶コーヒーのTV CMに使われていた「明日があるさ」が名を連ねていた。この時はまだまだTV発信で音楽が広まっていたのだなあ、と感慨深くさえなってしまう。

さて、こんな話の流れから唐突に感じるかもしれないが、矢野顕子である。それこそSNSで、最近耳にする機会が多くないだろうか?「ごはんができたよ~♪」って流れながらアップされるグルメ投稿。公式のXアカウントでも、「矢野顕子楽曲をSNSでも是非お楽しみください♪ #TikTok」と書かれていたので、ご本人も積極的に活用して欲しいし、実際されているのだと思う。

もちろん、その直接の要因は2024年にMIDI時代の楽曲がサブスク解禁されたことにある。が、別に解禁したって使われない楽曲なんて山のようにあるわけで。やはり、SNSと矢野顕子楽曲との相性が良いのでしょう。「ごはんができたよ」、だけでなく「ラーメン食べたい」や「クリームシチュー」なんていう楽曲もあるわけなので、先述の通り食事系の投稿をする際に使われているのだろうし、実際よく耳にする。

ただここでは、もう一歩踏み込んでSNSと矢野顕子楽曲との相性について考えたい。近年、若い女性を中心に短歌が流行した際、「短い文章表現とSNSの相性が合っているから」という解説があったのだが、これは個人的には半分正解っていう感じだと思っている。以前、テレビ番組で歌人の俵万智さんが「短歌ってそもそもこの花綺麗だなとかこのご飯美味しいなとか、そういう日常の感動を表したものだから」という解説をされていた。(意訳なので文責は私にあります) 短歌がSNSと相性が良かった理由って、本質的にはここに尽きるではないかな、と。日常のカジュアルな感動を投稿するのがSNSの大半なわけで。

さあ、話が見えてきたでしょ?そう考えると、矢野顕子楽曲とSNSの相性の良さっていうのは、矢野顕子というアーティストが如何に日常の感動を上手に表現しているか、その証明になっていると思うんですよ。歌詞に食べ物がよく出てくるっていうのは、あくまでも結果論だなと。矢野顕子楽曲の本質的な魅力と、SNSが相性良いんだろうなと。

そんなことを、流行歌の流行り方を眺めながら考えた次第でした。

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作家 カルロス矢吹

作家。1985年宮崎県生まれ。世界60ヵ国以上を歴訪し、大学在学中より国内外の大衆文化を専門に執筆業を開始。著書に「北朝鮮ポップスの世界」「世界のスノードーム図鑑」「日本バッティングセンター考」など。展示会プロデュース、日本ボクシングコミッション試合役員なども務め、アーティストやアスリートのサポートも行う。上田航平、ラブレターズ、Saku Yanagawa、吉住、Gパンパンダ星野の6名によるコントユニットTokyo Sketchersの米国公演準備中。