【LIFE MUSIC. ~音は世につれ~】第87回 モジャモジャ頭の後ろ姿を辿って、地球の音を堪能したい by カワムラユキ

ESSAY / COLUMN

〈NO MUSIC, NO LIFE.〉をテーマに音楽のある日常の一コマのドキュメンタリーを毎回さまざまな書き手に綴ってもらう連載〈LIFE MUSIC. ~音は世につれ~〉。今回のライターはカワムラユキさんです。

 

地球にも似たタブラという打楽器。日本で確実にタブラを取り巻く好奇心の縁、音像の存在を最も知らしめた音楽家。時代のムードと人々の気配を絶妙に内包したU-zhaanの演奏に触れると、まだ見ぬ世界の存在に想いを巡らせて、人生という旅の主人公になった気分にもなれたり。インドで修業を重ね、パンディット・オニンド・チャタルジーの門下で鍛えられたその手は、ジャンルも世代も越えて自由な軌跡を描いてきた。

思えばU-zhaanはインド古典の厳しい鍛錬と、東京クラブカルチャーの空気を、同じ身体の中で消化してきた稀有な存在なのかもしれない。SAKEROCK での活動で広く知られるようになり、レイ・ハラカミや蓮沼執太とのデュオでは、現代音楽にもポップにも寄り添わない新しい律動を提示。環ROYと鎮座DOPENESSとのセッションでは、ラップの中にタブラ特有のグルーヴを通わせ、言葉と打音で唯一無二の重力を作る独特の浮遊感を生みだした。まるで落語のような親しみやすさは、現代芸能の到達点のひとつと捉えても過言ではないはず。

その旅路の新しい結晶が、7月に放たれた11年ぶりの新作『Tabla Dhi, Tabla Dha』。タイトルの通り、打音が舌の上で転がるような、軽やかな響きがアルバム全体を走る。Corneliusの精密さとタブラで織りなす美音のミルフィーユ、青葉市子の歌声に寄り添う柔らかなリズム、鎮座DOPENESS の言葉遊びの後ろで、皮膜がふっと笑う瞬間。そして坂本龍一の名曲を新たに照らす後光の差し込み方。異なる質感は決して交じり合うことはないが、シームレスにエレガントな音の流線を描く様は、U-zhaanの人生そのものが一枚の円盤の上で回転しているようで感慨深い。

リリース後のツアーも旅の続きを象っている。新井孝弘との北インド古典音楽の探究、GEZANのツアーには環ROYと鎮座DOPENESSと参加。香港での蓮沼執太とのワンマンに加えて、清水ミチコのステージではユーモラスな役割もこなし、タブラは楽器であると同時に、祝祭の道具へと姿を変える。どの舞台に立ってもフォーマットに飲み込まれるどころか、それらの境界線をふっと上書きしてしまう。エレガントにしなやかに、しつこくない余韻だけを残して。都市の雑踏のざわめき、仲間たちとの共振、すべてが一打の中に同居してゆくように。

モジャモジャ頭がトレードマークのU-zhaanは、X(Twitter)から音楽フェスの会場まで、タブラを抱えて今日も何処かで景色を揺らし続けている。次はどんな拍が落ちてくるのか、その間を想像するだけで、胸の奥が少し波立つ。何に誘われて何処に辿りつくのか?細野晴臣さんの言葉を借りるならば、Right Time Right Place. まるい地球の上で好きな音の鳴る方へ進んでゆけば、相応しき縁(えにし)を人生に浮かびがらせるのだろう。少し大きなモジャモジャ頭の後ろ姿を辿るように。

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DJ&プロデューサー、作家 カワムラユキ LINK

バレアリック・スタイルのDJ&プロデューサー、作家。
近年は渋谷区役所の館内BGM選曲、オープンワールドRPG「CYBERPUNK 2077」楽曲プロデュースを担当。
作家としては幻冬舎Plusにて音楽エッセイ「渋谷で君を待つ間に」を連載中。
2010年に道玄坂にて築約70年の古民家をリノベーションしたウォームアップ・バー「渋谷花魁」をオープン。連動して国内外でラジオ番組やネットレーベルを運営中。
2025年7月23日にファーストアルバム『Love Forever』をリリース。