【LIFE MUSIC. ~音は世につれ~】第6回 平井堅にハッとしてGOOD。 by 渡辺祐

渡辺 祐
イラスト 竹内 俊太郎

ESSAY / COLUMN

〈NO MUSIC, NO LIFE.〉をテーマに音楽のある日常の一コマのドキュメンタリーを毎回さまざまな書き手に綴ってもらう連載〈LIFE MUSIC. ~音は世につれ~〉。今回のライターは渡辺祐さんです。 

 SNSに投稿される写真から顔が消えているそうであります。特に若い人。顔の部分はツールで消すか、端から写らないようにしている。写真はアップする。誰かには見てもらいたい。でもセキュリティー上の心配もあるし、そこまで自分大好きとか思われたくないし、ましてや「意識高い系(笑)」なんて思われたらどうしましょう。「承認欲求」と言ったりしますが、欲求丸出しはイケてないという、トーン&マナーの寸止め感がどうやらそのココロのようであります。

 SNSの発達普及日常化以降、なんだか世間は「典型的ななにか」に向かっているのかしら、と思ったりする。特段個性的である必要はなくて、「フツーにおしゃれ」「フツーにグルメ」「フツーに音楽好き」「フツーにSDGs」といったイメージですね。そんな「典型的なイマの人」であること(&それをSNSで承認してもらうこと)が最終目標になっているような気がする。逸脱するほどの個性はもう目標じゃないのかしらん。そう思うとテレビには「典型的な芸人」のような人がいっぱいるし、街には「典型的においしい店」があふれてる。個性がキモであろうユーチューバーと呼ばれる方々も「いかにもユーチューバー」みたいなしゃべり方をする。

 ラジオの仕事を続けていると、ゲストのひと言にハッとさせられることがあります。特に長年活動を続けているミュージシャンに「ハッと発言」は多い。オノレがしっかりできていますから、予定調和な振る舞いをしません。というかしてくれません。

 平井堅さんをゲストにお迎えしたときに、話の流れが好きな食べ物のことになって、そこで平井さんがこうおっしゃった。「ミュージシャンだからといって、グルメとかファッションとか、そういうこと全部にセンスがいいってことなんかないですからね」。ハッとしてぐー。言い回しは違ったかもしれませんが、大意としては「ミュージシャンに(音楽以外のことで)典型的なネタを求めすぎ」ということでありましょう。

 わかる。わかるのですが、世間は「フツーにグルメ」が目標ですから、ミュージシャンや俳優や芸人といった「時代の代表者」には「フツーよりややグルメ」を求めてしまうのですよ(ラジオMCの自己弁護)。

 思えば、デビュー当時の平井堅さんには、どこか典型的な感じもありました。歌のうまさ、そしてR&Bという時代の音、そういったものが絡み合って「典型的ヴォーカリスト」のようなものを個人的には感じていた気がします。

 ところがです。そんな浅はかなこちらのイメージはあっと言う間に塗り替えられてしまった。特にバラーディアとしての到達点を超えてからは、想定の斜め上からのリズムと独特な歌詞のパンチライン、さらにヘンテコなヴィジュアルも繰り出してくる。それが全部「平井堅」。なんだこの決定的な個性は。ミュージシャンも俳優も芸人も「典型的なイマの人」を求められる時代にあって、ヌケのいい逸脱、弩級の個性を、ユーモアも交えてさらっと醸し出す。

 もし、また番組のゲストにお迎えすることが叶えば、その辺りの呼吸をうかがいたいものであります。まあ、食べ物の話もするかもしれませんがね。面白いんだから。

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編集者、DJ 渡辺 祐

1959年神奈川県出身。編集プロダクション、ドゥ・ザ・モンキーの代表も務めるエディター。自称「街の陽気な編集者」。1980年代に雑誌「宝島」編集部を経て独立。以来、音楽、カルチャー全般を中心に守備範囲の広い編集・執筆を続けている。現在はFM局J-WAVEの土曜午前の番組『Radio DONUTS』ではナヴィゲーターも担当中。