【LIFE MUSIC. ~音は世につれ~】第47回 音楽を連れて生きる、人生という果てしない旅を by カワムラユキ

ESSAY / COLUMN

〈NO MUSIC, NO LIFE.〉をテーマに音楽のある日常の一コマのドキュメンタリーを毎回さまざまな書き手に綴ってもらう連載〈LIFE MUSIC. ~音は世につれ~〉。今回のライターはカワムラユキさんです。 

今から約一年前、沖縄は屋嘉にあるプライベートビーチがある小さなホテルの屋上で、七尾旅人は私と旦那さんのWedding Raveで歌っていた。ミストのような小雨がぱらついて幻想的な光が天から降り注ぎ、装飾の方が徹夜で作ってくれたデコレーションを覆うテントが、訪れた家族や友人の肩を濡らさぬように優しさで包みながら、この世界のすべてを圧倒的に肯定するように。

出会いは2000年初頭、石野卓球氏に紹介を受けてからは七尾旅人の歌と共に青春と半生を歩んできた。10代でデビューしたにも関わらず、音楽業界はおろか世の中から、そのアンファンテリブルで型破りの才能は理解されておらず、恵まれた状態とは言い難かったと思う。旅人は話しているだけで歌になる人だった。目の前で起こることを多面的に捉えながら独自の感受性で己の視点を導き出す、さながら大海原に繰り出した天才的な操縦士のように。瑞々しくも華麗な発想は常に驚きの連続で、大勢多数からの共感がポップミュージックの創作に於いては求められてしまうが、生きることに音楽を完全に寄り添わせていた旅人は、天真爛漫にミクロで深い共感を突く歌の数々を生み出していた。録音されて世の中に発表されているのは一握りで、特定の個人に贈った歌などを含めると膨大な未発表作品が存在している。その時の体験は一生の宝物だ。

20代後半から活発になった弾き語りのライブ活動を契機に、旅人は日本中津々浦々そしてアジア圏にも音楽を連れて旅をするようになった。名は体を表すとはそのことで、水を得た魚のように現地のフィーリングや出会いに呼応しながら、己のベストを尽くした音楽交流を真摯に紡いでゆく。その時期以降からは多忙を極めて、年に数回会うくらいの関係になってしまったけれど、青春時代を共に過ごした絆は兄弟姉妹や親戚のように強く、一日違いの誕生日の日には旅先からボイスメッセージやオリジナルの歌が必ず届く。そんな旅人に結婚の報告をすると驚きながらも心から喜んでくれて、なかなか会えなくなってしまって少し寂しくも感じていた青春の終わりから、次なる指標や目的地を見つけた気がした。まだまだ私たちの音楽を連れて生きる人生という旅は、続きがあるということを話さずともお互いに察したことだろう。

昨年末に横浜Bay Hallで行われた旅人のニューアルバム「Long Voyage」再現ワンマンライブの追加公演を訪れた。本公演で見たLINE CUBE SHIBUYAから数ヶ月、刻一刻と変わってゆく時流や世界情勢と対話しながら人生の旅の現在地を、しっかりと表現する姿は前回の公演と新しく違う質感で、一流の表現者である旅人の生き様を隅々まで堪能させてもらった。公演後に挨拶に行くと一転して茶目っ気たっぷりに、私と旦那さんを抱きしめて耳元で歌を歌って歓迎してくた。

生きていれば楽しい事ばかりじゃない、敵もいれば味方もいる、この世界は狭いようで果てしなく広く、良き理解者に出会い分かち合う悦びを求めて、きっと誰もが旅をしている。そんな人生の旅にもしも音楽を連れてゆけるのならば、きっと良き相棒でいてくれる事だろう。

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DJ&プロデューサー、作家 カワムラユキ LINK

バレアリック・スタイルのDJ&プロデューサー、作家。
近年は渋谷区役所の館内BGM選曲、オープンワールドRPG「CYBERPUNK 2077」楽曲プロデュースを担当。
作家としては幻冬舎Plusにて音楽エッセイ「渋谷で君を待つ間に」を連載中。
2010年に道玄坂にて築約70年の古民家をリノベーションしたウォームアップ・バー「渋谷花魁」をオープン。連動して国内外でラジオ番組やネットレーベルを運営中。