【LIFE MUSIC. ~音は世につれ~】第39回 氷川きよしと「演歌」と「ポップス」と秋の風 by 渡辺祐

渡辺 祐
イラスト 竹内 俊太郎

ESSAY / COLUMN

〈NO MUSIC, NO LIFE.〉をテーマに音楽のある日常の一コマのドキュメンタリーを毎回さまざまな書き手に綴ってもらう連載〈LIFE MUSIC. ~音は世につれ~〉。今回のライターは渡辺祐さんです。 

 この稿を書いている時点で、氷川きよしは歌手活動を休止中。生のお姿が見られないとはいえ、その不在を埋めるかのように豪華ベスト盤、映像作品、カヴァー・ベストなどのリリースが続いて、ファンにとってはなかなかに忙しい1年であったのではないでしょうか令和5年。真っ白な衣装に素足の氷川さんがこちらを見つめている、そんな綺麗なモノクローム写真でタワーレコードの「NO MUSIC, NO LIFE!」に登場したのは6月〜8月期でありました。

 

 演歌界のプリンスとして23年間を走ってきた氷川さんですが、あらためてベスト盤収録のナンバーを聴いてみれば、その曲調&歌詞の世界は幅が広い。「箱根八里の半次郎」のような股旅物から、波しぶきがざぶんと押し寄せるド演歌、ポップスタイプの曲、ご存知「限界突破×サバイバー」まで、実に多彩。2022年に『氷川きよし オリジナル・コレクション』というシリーズ(3作、各CD3枚組!)が出ていて、それぞれ「演歌&歌謡曲の世界」「時代物&音頭の世界」「ロック&ポップス&バラードの世界」と名付けられているのが、それを物語っております。

 

 

 

 まあ、そもそも演歌も、それを包括する歌謡曲も「ポップス」なわけですが、そこのところはわりとしっかりエリア分け。2020年のアルバム『Papillon(パピヨン)―ボヘミアン・ラプソディ―』のリリース時にも「初のポップスアルバム」と謳われてちゃんと差別化。ちなみにオリコンランキングには「演歌・歌謡シングル」というチャートもある。つまり制作側にも聴き手側にも「演歌(歌謡)界」は存在している令和5年。なんでしょうね、「演歌」と「ポップス」を分けるもの。

 いわゆる演歌調と呼ばれるメロディー、和を感じるアレンジ、こぶしを回すかどーか、といった音楽的な特徴はございます。でも、歌詞もポイント。よく言われる話ですが、酒、夢、海、北国、雪、雨あたりが頻出ワード。未練に悲恋、夫婦(めおと)に親父。肴はあぶったイカでいい。

 そう思って、先の「演歌・歌謡シングル」チャートに並んでいる、つまり最新演歌も調べてみたのですが、「歯を食いしばる男の生き様」や「儚い恋の女の涙」がどこかで見え隠れ。にわかリサーチの半端な調査結果とはいえ、いやあ、なかなかに古めかしい。

 「音は世につれ」と題されたこの稿ですが、世に連れるばかりがエンタテインメントではないことも承知しております。演歌は(いい意味で)「昭和伝統芸能」であるという部分もあろうかと思います。「名代 富士そば」のBGMとしては、古めかしいからいいという気もする(関東地区限定)。

 でも、機を見るに敏、時代を映すに敏の感覚も「ポップス」の魅力。演歌歌謡界は、吉幾三さんなどをのぞけば、シンガー・ソングライターではなくてシンガーの世界ですから、作詞・作曲・編曲の先生方が作り上げているという側面も大きい。オモテに出る歌手の皆さんとウラで支える作家陣&スタッフの皆さんの「敏の現在地」はどのあたりなのかしら。若手演歌歌手はいるけれど、フツーの若い方はカラオケで演歌を歌っているのかしら。歌っているとしたらどの曲なのかしらん。若い友人がいないのでわからないのが残念だ。

 今年、アメリカでは、ジャンルとしては「カントリー」に分類されるモーガン・ウォレンの「ラスト・ナイト」が、ビルボードの〈Hot 100〉で16週間1位を獲得するという珍事、いや快挙がございました。その理由を分析する記事などによれば、やはり「時代の歌」であったことが大きい模様。カントリーのSDGsです。

 

 

 シングルだけでもすでに40曲を超え、オリジナルもカヴァーも自在に身につけてきた氷川さんであります。その実と華はまさにスター。いつどのような形で歌手活動を再開されるのか、にわか調査班の筆者には想像もつきませんが、もしその時に「令和演歌」を携えた限界突破スターとして戻ってきたら凄いなあ……なんて思ったりしてみる秋の夜長。秋風の吹く街のはずれの居酒屋で昭和生まれのひとり酒、手酌酒。演歌を聴きながら。キミも古いね(笑)。

profile_img

編集者、DJ 渡辺 祐

1959年神奈川県出身。編集プロダクション、ドゥ・ザ・モンキーの代表も務めるエディター。自称「街の陽気な編集者」。1980年代に雑誌「宝島」編集部を経て独立。以来、音楽、カルチャー全般を中心に守備範囲の広い編集・執筆を続けている。現在はFM局J-WAVEの土曜午前の番組『Radio DONUTS』ではナヴィゲーターも担当中。