【LIFE MUSIC. ~音は世につれ~】第10回 オータニサンとNONA REEVESの「Two-Way」 by 渡辺祐

渡辺 祐
イラスト 竹内 俊太郎

ESSAY / COLUMN

〈NO MUSIC, NO LIFE.〉をテーマに音楽のある日常の一コマのドキュメンタリーを毎回さまざまな書き手に綴ってもらう連載〈LIFE MUSIC. ~音は世につれ~〉。今回のライターは渡辺祐さんです。 

 同時代を生きる悦びとはこのことだったか、と思ったりしますね。なにがってオータニサン。この拙文が世に出る頃に記録がどうなっているかは野球の神様のみぞ知るですが、その大記録に向かうスーパー・プレイヤーが拙人生の範囲内に現れて、「歴史的」が眼前でリアルタイムに進んでいるのですから。

 大谷さんは日本語的には「二刀流」(ちょっとヘンだけど)。英語では「Two-Way」。でも、感覚的にはマルチ・プレイヤーかなあ。なにせ「投・打・走」で記録的活躍をしながら「紳士枠」でもトップの評価。「マルチ」も、まあ安易に使われがちですけど、リスペクトすべきマルチ・プレイヤーには、ジャンル横断的に多才であるということに加えて、それぞれの仕事で「トップクラスの成績」を残しているという条件をつけたい気がする。オータニサンはさん付けされて当然であります。

 一方、スポーツ界にはユーティリティー・プレイヤーという言葉もございます。野球で言えば、ピッチャー&キャッチャー以外の内野外野の全ポジションを守れちゃう野手に使いますね。打撃成績が伴えば、それはもうスーパー・プレイヤーですが、ユーティリティーであることそのものに価値がある「ユーティリティー・プレイヤーのプロ」も多い。出場機会を得たらモノにする、お役に応える。肝心なのは、シュアなプレイ・スタイルと軽やかなフットワークでありましょう。

 ノーナ・リーヴスもフットワークがいいと思うのです。現メンバーが揃ってから25年、来年にはメジャー・デビューから25年を迎える、いわばヴェテランの域に入りながらもメンバー3人のステップが軽やか。バンドとして(&ソロとして)アップデートされた作品を発表し続け、ギターの奥田健介さんとドラムの小松シゲルさんは、他バンドやユニット、ヴォーカリストのセッション・メンバーとしてお役に応えること数知れず。そして説明するまでもなく、ヴォーカルの西寺郷太さんは執筆家、ソングライター、ラジオやTVのパーソナリティーとしても出色の存在。特に執筆活動に関しては、読者の目からウロコを落とし、その道のプロの目からも落としたウロコが五万枚。バンドを足場にしながら、いろいろなポジションで成績を残し続けているんですから頭が下がる。個人的には「ポップ先生」と呼んで敬意を払わせていただいております。オータニサンに野球の神様がついているならば、ノーナには音楽(&カルチャー)の仏様のご加護がありそう。西寺郷太さんはお寺の息子さんですからね。

 「時代」というのは、どうしても開拓者や改革者、いわばヒーローに功績を集中させがちなものです。がしかし、そこに「ユーティリティー・プレイヤー」や、実務を支える「実行部隊」がいなければ、実は積もった功も世に出ない、時代も動かないことも多いのです。ユーティリティーに関しては「二兎を追う者は一兎をも得ず」という耳の痛い言葉もありますが、一兎をしっかり追っていったところに二兎目がぴょんぴょんしていたら仕留めて悪いという法もなし(ウサギ虐待の意図はございません)。

 オータニサンもひとりでは勝てないというチーム事情に思いをはせると、マルチもユーティリティーも、そしてもちろんスペシャリストもチーム内に同時発生しないといかんのだなあ、と。バンドにも学ぶ、競争と適材適所の同時発生。でも自己犠牲はノー・サンキュー。さて、明日はどっちだ。

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編集者、DJ 渡辺 祐

1959年神奈川県出身。編集プロダクション、ドゥ・ザ・モンキーの代表も務めるエディター。自称「街の陽気な編集者」。1980年代に雑誌「宝島」編集部を経て独立。以来、音楽、カルチャー全般を中心に守備範囲の広い編集・執筆を続けている。現在はFM局J-WAVEの土曜午前の番組『Radio DONUTS』ではナヴィゲーターも担当中。