【LIFE MUSIC. ~音は世につれ~】第77回 色々思ったMAJ、もっとCreepy Nutsを見習って by カルロス矢吹
ESSAY / COLUMN
いやあ、凄かったすね!!Creepy Nutsの「MUSIC AWARDS JAPAN 2025」(以下、MAJ)7部門受賞!!…と言っても、何人が分かるのだろうか。音楽界隈以外で、この話題を口にしている人はあまりいなかったように思う。友人の某ベテランミュージシャンでさえ、「なんかあったよね、なんとかアワード」と言っていた始末だ。MAJとは、音楽業界の主要5団体が日本版グラミー賞を目指して初開催した、日本初の国際音楽賞である。授賞式が5月22日に京都で行われ、最早説明不要のCreepy Nuts「Bling―Bang―Bang―Born」が最優秀楽曲賞など9部門で選出されて表彰された。
この賞を設立した目的は、海外にも通用する日本の音楽賞を作りたい、で間違い無いと思う。他部門の受賞者の顔ぶれを見れば明らかで、新しい学校のリーダーズ、DJ Nobu、上原ひろみ(この人に至っては本家本元のグラミー賞受賞アーティストである)など、ジャンルは違えど皆海外での評価が高いアーティストばかりだ。現状、賞よりもアーティストの方が先を行っているというのが実態だと思う。その筆頭がCreepy Nutsということだろう。
誤解しないでほしいのだが、MAJをディスるつもりは全くない。先述した通り、なんせ初開催である、何事も浸透するのには時間がかかる。賞設立の意図も意義も支持したいし、今後日本のアーティストが海外に進出しやすくなるためにも、こういった賞をみんなで育てていくことは必要だと思う。先日アジアツアー開催を発表したCreepy Nutsの二人が「MAJ第一回で7部門を受賞した…」と英文でプロフィール欄の片隅にでも書き続けてくれるだけでも、今後MAJを取り巻く状況は変わってくるだろう。
だからこそ、MAJの中の人にちゃんと苦言を呈したい。「BEST SONG ASIA」と題して、中国・韓国・タイ・インドネシア・ベトナム・フィリピンのアーティストを表彰する部門を設けて、台湾のアーティストに設けないのは、正直どうかと思った。この場で今更中国と台湾の関係を書いてもしょうがないけど、MAJに出席された方の中にも、このことに疑問を呈していた方はいた。「国際音楽賞」を標榜するのなら、ちゃんと自分達の動きが外からどう見られるかをもっと意識して欲しい。Creepy Nutsの最新アルバム『LEGION』に収録されている楽曲「Japanese」なんかを聴いてると、この人達は極めて自覚的に“日本人アーティスト”として国際舞台で振る舞っているんだな、ということがよくわかる。ほら、こういう風にさ。
繰り返すけど、MAJが本当にグラミー賞みたいになって欲しいからこそのエールだと受け取っていただきたい。数十年後、Creepy Nutsの二人が「俺らはMAJの最優秀楽曲賞を受賞第一号なんだよ!」と大声でアピール出来ていますように。

作家 カルロス矢吹
作家。1985年宮崎県生まれ。世界60ヵ国以上を歴訪し、大学在学中より国内外の大衆文化を専門に執筆業を開始。著書に「北朝鮮ポップスの世界」「世界のスノードーム図鑑」「日本バッティングセンター考」など。展示会プロデュース、日本ボクシングコミッション試合役員なども務め、アーティストやアスリートのサポートも行う。上田航平、ラブレターズ、Saku Yanagawa、吉住、Gパンパンダ星野の6名によるコントユニットTokyo Sketchersの米国公演準備中。