【LIFE MUSIC. ~音は世につれ~】第68回 悪しき文化の象徴なのか?“聴かず嫌い”は御用心。 by カルロス矢吹
ESSAY / COLUMN
〈NO MUSIC, NO LIFE.〉をテーマに音楽のある日常の一コマのドキュメンタリーを毎回さまざまな書き手に綴ってもらう連載〈LIFE MUSIC. ~音は世につれ~〉。今回のライターはカルロス矢吹さんです。
昨今のフジテレビ騒動をキッカケに、思い出したように(主にSNS上で)”フジテレビ文化の象徴”として、とんねるずを槍玉に挙げる投稿が散見される。Xで軽く検索してみても、「とんねるずに代表されるフジテレビらしい内輪ノリが大嫌いだった」みたいな投稿が色々と出てくる。引責辞任したフジテレビ前社長の港浩一氏が、同局の看板番組であった『とんねるずのみなさんのおかげです』の担当プロデューサーであることも手伝っていると思うが、個人的には直接騒動と関係ない彼らの名前を今出してもなあという感じがする。と、物騒な時事ネタから書き出したが、そんな話をしたいのではない。あくまで音楽の話がしたいのだ。というのも、とんねるず木梨憲武の音楽活動が、現在進行形ですこぶる面白いからである。
昨年11月に開催された、とんねるず日本武道館2DAYSコンサート『とんねるず THE LIVE』は両日完売御礼。(若い世代向けにはピンと来ないかもしれないが、とんねるずは活動初期から継続的に音楽活動を続けており、累計700万枚以上を売り上げ、東京ドームでコンサートまで行った超人気アーティストである)それに加えて木梨憲武ソロの音楽活動も活発で、先述したコンビでの武道館公演の直前に『木梨ソウル』というアルバムを上梓した。タイトルの通り、木梨本人が愛するソウルミュージックを基調としながら、製作陣の顔ぶれはAK-69、松本孝弘、横山剣、AI、DOUBLE等々、豪華なだけでなく多岐に渡っている。このアルバムは、例えば音楽専門雑誌の年間ベストに入るような、“シリアス”なものではないと思う。ただ、芸能界の大御所が余興で作ったものと油断して聴いたら面食らうはず。出勤しながらイヤホンで聞いていたら、思わず身体でリズムを取ってしまう、ウェルメイドなポップミュージックが揃っている。本作を基盤としたソロコンサートも、今年の2月に開催され、その模様は現在もABEMAで視聴出来る。アルバム制作陣の多くが揃った豪華なステージなので、興味のある方は是非一度見てみて欲しい。
で、そのABEMAで『木梨レコード』という木梨憲武MCの音楽番組も始まったのだが、これが面白い。なんだかABEMAの回し者の様だが、良いものは良いのだから許して欲しい。番組内容はこうだ、毎回レコード屋の店主に扮した木梨が、客に扮したゲストアーティストを迎える。出演するのは、¥ellow BucksやIOといった新進気鋭の若手アーティストばかり。軽くトークをした後に、ゲストが生演奏で一曲披露する。これがまずカッコいい、やはり生演奏は格別である。そして番組の最後は、往年の人気番組『THE夜もヒッパレ』よろしく、木梨とゲストによる歌謡曲のデュエットで幕を綴じる。決して偉ぶることなく、若いアーティストと音楽談義をする木梨の姿からは、“フジテレビらしい内輪ノリ”なんて微塵も感じられない。単にアーティストに対してリスペクトがあるし、音楽に対して謙虚である。
2019年に木梨が「NO MUSIC,NO LIFE.」のポスターに登場した際、自分の音楽について「若い人も聴いてみてみてみーて!!」とコメントしていた。自分より若い人の意見が気になる、そして若い人と作業をするということは、クリエイターにとってはとても大事な姿勢だと思う。そこに関しては、今も全くブレていないんだな、ということが最近の音楽活動を見ていても良くわかった。“聴かず嫌い”せずに、『木梨ソウル』の再生ボタンをクリックしてみてはいかがだろうか。とんねるずを知らない若い世代にこそ、ね。

作家 カルロス矢吹
作家。1985年宮崎県生まれ。世界60ヵ国以上を歴訪し、大学在学中より国内外の大衆文化を専門に執筆業を開始。著書に「北朝鮮ポップスの世界」「世界のスノードーム図鑑」「日本バッティングセンター考」など。展示会プロデュース、日本ボクシングコミッション試合役員なども務め、アーティストやアスリートのサポートも行う。上田航平、ラブレターズ、Saku Yanagawa、吉住、Gパンパンダ星野の6名によるコントユニットTokyo Sketchersの米国公演準備中。