【LIFE MUSIC. ~音は世につれ~】第62回 冷めた時代の景色にあらゆる熱を、Are You Romantic? by カワムラユキ
ESSAY / COLUMN
〈NO MUSIC, NO LIFE.〉をテーマに音楽のある日常の一コマのドキュメンタリーを毎回さまざまな書き手に綴ってもらう連載〈LIFE MUSIC. ~音は世につれ~〉。今回のライターはカワムラユキさんです。
延々と続くアフターアワーズみたいな残暑が続く10月下旬、一瞬だけ冬めいた気温を感じさせた不思議な夜に、真っ赤な衣装に身を包んだアイナ・ジ・エンドとUAが六本木のEX THEATERに降臨した。旅先で数日前に拝んだスーパームーンのように神秘的な魔力と、一瞬であらゆる生物を温める太陽に似た圧倒的な存在感を持つ二人の歌姫は、確かにいま同じ方角に向かって歩んでいるのかもしれない。二人の出会いは2022年に上演されたジャニス・ジョプリンのミュージカルでの共演がキッカケとのこと。ジャニスという偉大な先人が引き合わせたのか、自然と親睦を深め合い、更にはバンドメンバーが二名同じという流れも相まって、和やかで愛に溢れた対バンに仕上がっていたように感じる。アンコールはUAのデビュー曲で、アイナ・ジ・エンドが幼少期から口ずさんでいたという藤原ヒロシ氏プロデュースの「HORIZON」をセッション。まるでレコーディング済みの音源を聴いているかのような、極上完成度の音像に思わず心も体もウットリと。
相変わらず音楽の力に救われ続けている私も、UAを追いかけて歩いてきた世代。多感な10代を過ごした90年代には、与謝野晶子の歌集「みだれ髪」と、UAの初期作「PETIT」「11」に心酔していた。特に故・朝本浩文氏プロデュースの「情熱」は楽曲のリズムやトラックの先鋭性も相まって、リリックに表現されている女性の在り方や心象風景は鮮烈この上ない。「みだれ髪」に通ずる部分も多く、DNAに深く影響が刻まれた事は確かで、しかもこの歌がヒットを記録した事により一般の方々にまで認識としてUAの世界を共有できるようになったことは大きい。まるで自分自身の感覚も市民権を得たような気分にさせてくれた。このすべてを名付けて、UAのご加護生活と呼ぶことにしている。
歳を重ねてディープに音楽を聴き込んでいく中でも深く疎遠になることはなく、アルバムを発表するごとにマニアックな素晴らしいクリエイターやミュージシャンを起用し、ライブでは民族音楽からインプロヴィゼーションまで取り入れる姿勢は、共に時を歩むリスナーとして濃密な展開を授け続けてくれていた。
コロナ禍もあり近年は遠い存在になりつつあったUAが、コロナ終焉の空気を誰もが探り合っていた2022年春、マヒトゥ・ザ・ピーポー氏作の「微熱」を提げて帰ってきた。あの頃と今が重なり合うロマンティックなラブソング、MVに登場する若いカップルのエネルギーにかつての自分を投影し、私は幾度も涙した。もう一度あの頃のようにロマンティックに乱れながら、真っ赤な口紅やドレスを纏って情熱的に生きてもいいんだよって諭してくれた気がして。。二度と冷めることがない熱を、音楽に人生に宿し続けてゆきたいと強く思えたから。何度でもUAに導かれ護られて、次はどんな情熱的なロマンティックに心揺さぶられるのだろう?