【LIFE MUSIC. ~音は世につれ~】第57回 天国の音楽は国境や時空を越えて、御守りとなって人生を旅する by カワムラユキ
ESSAY / COLUMN
〈NO MUSIC, NO LIFE.〉をテーマに音楽のある日常の一コマのドキュメンタリーを毎回さまざまな書き手に綴ってもらう連載〈LIFE MUSIC. ~音は世につれ~〉。今回のライターはカワムラユキさんです。
酷暑が猛威を奮う7月20日、神々が住むバリ島はスミニャックのポテトヘッドビーチクラブで珈琲を飲みながら、今宵ビーチの前に設置されたステージで行われる細野晴臣さんのライブのリハーサルを拝見していた。ホテルのチェックインには早く、付近のカフェに入るくらいならば、先に会場を視察がてらと同伴した夫の判断が密かなラッキーを呼び寄せた。
SNS上では事前にさほど書き込みを見かけなかったバリ公演は、きっと著書を読む限り細野さんの口癖(だったはず)「Right Time Right Place」な人々しかいない貴重なモーメントになる予感がして、6月上旬にアナウンスされた当日に勢いで全てのチケットを予約した。
ロンドンの人気ラジオ局、NTS Radioのプレゼンツによるイベントで、KhruangbinとのツアーでYMOの楽曲を演奏したり、名作「HOSONO HOUSE」50周年記念制作のトリビュートアルバムでは親交の深いモデルの水原希子と妹の水原佑果を、The Mizuhara Sisters名義でフィーチャーして「福は内 鬼は外」をカバーしているJohn Caroll Kirbyが登場。夜にはTheo Parrish、会場のラジオブースからのライブストリームにBENEDEKがラインナップされるなど、世代やジャンルを越えた一流アーティストやDJが鉄壁の布陣で神の降臨を迎えるべく取り囲んだ。
オープニングにはDewa Alit&Gamelan Salukatによる神聖なガムランの生演奏が行われ、会場には近隣のアジア諸国、そしてヨーロッパやアメリカ方面からのトラベラーが多く訪れて、日本人はおよそ20名くらい。この光景を見届けて日本で待つ仲間に語り継ぐことは己の使命と言わんばかりに、私は全神経を集中してステージを楽しむことに。こんなにもワクワクするのはどれくらいぶりだろうか?
バンドメンバーはお孫さんの細野悠太さんと、共にCHO CO PA CO CHO CO QUIN QUINやシャッポとして活動中の仲間達と、角銅真実さんとクラムボンの原田郁子さんがユニット、”くくく”として参加。細野さんの登場前に高橋幸宏さんとのユニット”Sketch Show”の名曲「Stella」をカバーするなどオープニングから完全に涙腺が崩壊。細野さんは終始リラックスしたムードで淡々とギター片手にソロアルバムから1曲ずつ披露してゆく。
時に印象的だったのが20年ぶりに演奏したという「終わりの季節」や、晴天に恵まれたバリ島にこの上なく相応しい「はらいそ」、そしてアンビエントの名盤「Medicine Compilation」に収録されていた「AIWOIWAIAOU」など、アンコール前のラストはVampire Weekendがサンプリングした「花に水」と、1時間以上も演奏を。まさに音楽と愛の祝祭!地上に存在する様々な愛の音粒だけを繋ぎ、極上のご利益だけを授ける儀式のようで、福に包まれた新しい自分を迎え入れる事が出来た時間。この記憶をお守りにして、これからの人生を生きてゆくと強く誓った夏。
もしも願いが叶うなら、いつか時が経ち、愛する人と”はらいそ”(天国)に辿り着くその日まで。