【ポップの羅針盤】第4回 NewJeansとSMAPと新しい東アジアの時代 by 柴 那典

ESSAY / COLUMN

その“空席”は、たしかに日本のポップカルチャーの急所だった。

NewJeansの「Supernatural」を聴いて最初に感じたのは、ノスタルジーについてのことだった。聴けば誰もが「あの頃」を思い出す、ニュー・ジャック・スウィングのサウンドプロダクション。その意匠はテディ・ライリーやボビー・ブラウンからブルーノ・マーズまでいろんな歴史を持っている。そのスタイルを意欲的に取り入れたかつてのK-POPのレジェンドだっている。

でも、日本のリスナーの多くは、その向こう側に90年代半ばのSMAPを見出したんじゃないだろうか。やはりニュー・ジャック・スウィングを全面的に取り入れた「がんばりましょう」とか「たぶんオーライ」の頃。

SMAPの存在は、ファンだけでなく、日本の大衆のうっすらとした集合意識の中で「失われた多幸感」と結びついているように思うことがある。

あの頃はもうバブルは弾けていた。でもあんなにクールなことができた。1995年の『SMAP 007Gold Singer~』はオマー・ハキムら海外の一流ミュージシャンを起用したアルバム。ジャケット・デザインは信藤三雄だ。メインストリームのど真ん中で、たっぷりと予算を使って、その上でポップカルチャーとは引用と差異化のゲームであることを示していた。

Supernatural」が呼び覚ますノスタルジーは、そういう「失われた多幸感」とリンクしているような感覚がある。もちろんNewJeansはデビュー以来いろんなスタイルをリバイバルしてきたグループだけれど、特に日本デビュー曲として放たれたこの曲には、プロデューサーのミン・ヒジンの視線の先にある「かつての日本のポップカルチャーが持っていた光沢感」を新しい形で蘇らせるような意志が、サウンドにも、アートワークにも、スタイリングにも一貫しているように思う。

Supernatural」はファレル・ウィリアムスがプロデュースしたManami2009年のデビュー曲「Back of My Mind」をサンプリングした楽曲だ。ManamiNIGOとファレル・ウィリアムスが開催したオーディション「STAR BAPE SEARCH」で見出されてデビューした沖縄出身の女性シンガーである。

ジャケットは村上隆とのコラボレーションによるもの。自身のシグネチャーであるフラワーキャラクターを配したものになっている。ポップアップストアでは村上隆に加え、藤原ヒロシとのコラボアイテムも展開される。当然これらのビジュアルやコラボレーションにも意味がある。NIGO、村上隆、藤原ヒロシ、それぞれの名前が持つファッションやアートにおける文脈を参照している。

去年くらいから日本と韓国のポップ・ミュージックの関係性が新しいフェーズに入ってきたと感じる。

「韓流」と「嫌韓」がハレーションを起こしていた00年代から10年代初頭のムードは後景に過ぎ去り、K-POPが一時のブームではなく日本のユースカルチャーの根っこの部分に浸透してから10年以上の時が経った。2010年代の半ばから数年前までは、ファンダム・カルチャーを介してグローバルなポップ・ミュージックの潮流と同期したK-POPと、良くも悪くもある種のガラパゴス文化として隆盛してきたJ-POPという対比が成立していた。けれど、今は、それとは違った現象が生じてきているように思う。

金成玟『日韓ポピュラー音楽史:歌謡曲からK-POPの時代まで』は演歌/トロットの時代からBTSに至るまで、日本と韓国のポップ・ミュージックがどう交わってきたかという歴史を辿る一冊だ。その最後に、韓国で今起こっている「J-POPブーム」についての記述がある。あいみょん、藤井 風、米津玄師、YOASOBI、優里などが韓国の若者たちの音楽文化に定着していること。imaseの「NIGHT DANCER」がJ-POPとしては初めて韓国の大手音楽配信サイトMelonの「TOP100」に登場したこと。それらが韓国での「新しい現象」として紹介されている。

同書にはXGについての記述もある。メンバー全員が日本人で構成され、トレーニングとデビューと活動の拠点を韓国に起き、歌とラップはすべて英語。類まれなるパフォーマンスのスキルでグローバルに飛躍を果たしたXGのことを「K-POPJ-POPか」もしくは「K-POP vs J-POP」のような二項対立の構図で捉えると、あまりにも多くのことを見逃してしまうとある。

NewJeansが今立っているのは、そういう「新しい東アジアの時代」なのではないかと思う。過去に耽溺するためではなく、未来を切り拓いていくためのノスタルジー。そういうものが持つ力を感じる。

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音楽ジャーナリスト 柴 那典(しば・とものり) LINK

1976年神奈川県生まれ。音楽ジャーナリスト。京都大学総合人間学部を卒業、ロッキング・オン社を経て独立。音楽を中心にカルチャーやビジネス分野のインタビューや執筆を手がけ、テレビやラジオ出演など幅広く活動する。著書に『平成のヒット曲』(新潮新書)、『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)、『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)、共著に『ボカロソングガイド名曲100選』(星海社新書)、『渋谷音楽図鑑』(太田出版)がある。ブログ「日々の音色とことば」 
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