〈NO MUSIC, NO LIFE.〉をテーマに音楽のある日常の一コマのドキュメンタリーを毎回さまざまな書き手に綴ってもらう連載〈LIFE MUSIC. ～音は世につれ～〉。今回のライターは渡辺祐さんです。 

　公式ＨＰによりますと「かつて戦後間もない頃、偉大なる先達…東京キューバンボーイズやノーチェクバーナが大志を抱き試みた日本民謡とラテンリズムの融合を、21世紀に再び再生させる、民謡クルセイダーズ」とあります。最新アルバム『日本民謡珍道中』でも「佐渡おけさ」「木曽節」「ソーラン節」といったお耳なじみを中心に各地の民謡をグローバルなリズムでアレンジ。これもまたＨＰから引用すれば「クンビア、ビギン、ブーガルー、カリプソ、アフロ、ルンバ、レゲエ、モーラムなど様々なダンスミュージックと、失われた音楽『日本民謡』との化学反応」。

　民謡や音頭と「なにかの融合」というのは、先の「偉大なる先達」はもちろん、いろいろな方々がトライをしております。特に昭和の頃は、流行歌手の多くが「○○○、民謡を唄う」的な盤を残していますし、企画モノでは（純粋な民謡ではありませんが）三橋美智也さん a.k.a. ミッチーのディスコ曲「THE TOMBI（夕焼けトンビ）」のヒットも記憶に新しい（←44年前だっつーの）。思えば、古くは「おばＱ音頭」にはじまって「ポケモン音頭」などなど、昭和平成令和を通してテレビアニメはエンディングテーマとしてオリジナルの音頭を導入。かの大滝詠一さんの音頭シリーズも忘れてはいけませんし、神宮球場のスワローズの攻撃時には毎回「東京音頭」です（「毎回」はファンの妄想です）。直近では矢野顕子・上妻宏光による「やのとあがつま」のオルタナ民謡アルバムもある。桑田佳祐「ハダカ DE 音頭～祭りだ!! Naked～」とサザンオールスターズ「盆ギリ恋歌」あたりも「偉大なる先達」からの流れをくんでいるような気がしなくもなくなくない。

　２０２３年はコロナ禍の収束を受けて、各地の伝統的な祭りの復活という話題も多数。テレビのニュースを見ていると、そこには無数のふんどし姿の男ども。相撲中継も含め、男のケツ放映の延べ時間という意味では、ＮＨＫはギネスに登録が可能なのではないでしょうか。受信料を払う甲斐があるというものです。

　いや、けっこうね、みんな無意識下に親しんでいるんじゃないのかしら、と思ったりもするわけです、民謡、音頭、祭り囃子。それでも民謡や音頭が「失われた音楽」であるというのは、本来の労働歌的＆祭事曲的な役割からすればその通りでしょう。しかも、音階も抑揚も独特だし、リズムはオモテ拍だし、歌詞の意味がわかんないし。２０００年代も20年超となって「無意識下の親しみ」数値もどうもノルマには達していないっぽい。キックバックもなさそう。

　がしかし、だからこそのインパクトを持ち得るということもあるんじゃないでしょうか。それはどこかにある理想郷のような、「ファンタジックな唄世界」のような。そう思えば単に伝統的過去的な存在というよりは、脳内にある別世界を呼び覚ますという、エンタテインメントの原点のような存在になっているのかも民謡。

　「失われた」からこそ「発見される」とすれば、その探検旅行の現在地が民謡クルセイダーズ。実際に筆者もライヴを体験したことがありますが、1曲目から「ここはどこワタシは誰？……っていうか、どこでもいいし、誰でもいい！」といった境地に達しておりました。そのイリュージョンを支えているのは、まずミュージックとしてのクオリティー。そしてきっとそこにある心意気。それがないと、そもそも構造が違う民謡とダンス・ミュージックを融合させるという難所は超えられなさそうですから。

　ニッポン、特に東京では、再開発がガンガン行われていて、かつて愛された街並み、その風情や趣きといったプライスレスな何かがバシバシ失われていっております。じゃあ、そこに建った新たな建物に次の何かを期待できるのか、風情を感じられるのかと問われれば、いやあ、そりゃあ、あなた、やっぱり、ほら、ナンじゃないですか（忖度発言）。

　民謡クルセイダーズの再開発事業＝民謡珍道中は、その逆を行っている。そんな気がするんですね。そこのところにお手を拝借。

編集者、DJ 渡辺 祐

1959年神奈川県出身。編集プロダクション、ドゥ・ザ・モンキーの代表も務めるエディター。自称「街の陽気な編集者」。1980年代に雑誌「宝島」編集部を経て独立。以来、音楽、カルチャー全般を中心に守備範囲の広い編集・執筆を続けている。現在はFM局J-WAVEの土曜午前の番組『Radio DONUTS』ではナヴィゲーターも担当中。